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・人間の生まれる遥か以前から存在している、寄生虫。

 でもきっと、寄生虫に限らずどのような研究職の方でもみんな対象に愛を持ってやっていると思います。私も寄生虫のことはとても大好きです。もちろん、人間に寄生すれば良いことはしませんから、多くの方が難色を示すでしょう。ですが非常に面白い存在です。

 私は“寄生虫を持っていない動物はいない”くらいに思っているんですよ。人間の寄生虫に限れば200種類くらい、人によっては300種類くらいいると言う人もいます。それに加えて他の生き物、たとえば犬や猫、魚なんかもそうです。どんな生き物にも寄生虫はいます。

 それで寄生される側、いわゆる自由生活者と呼ばれてる生き物のことですが、それより寄生者の方が数は多いんです。言い換えると世の中、寄生虫ばかりになるんです。

 しかし寄生虫はどれも小さいものです。宿主より大きい寄生虫はいませんから。どんなに大きくても、目黒寄生虫館にある寄生虫の標本でもサナダムシが8.8メートル。それも丸めたら野球ボールくらいになるでしょうか。つまり種類は多いのですけれど、質量に換算すると少ない。それに種が違えば、取りつき方や繁殖の仕方が変わってくる。さらにはライフサイクルまで違ってきます。

 寄生虫はたくさん卵を産むんです。たとえばフタゴムシですと、交尾のために2つの虫が一緒になって蝶々みたいな形を成すんです。普通は人間にしても、動物にしても、自分以外はもう異物なんです。だから普通は拒絶反応を起こします。しかしフタゴムシは相手を異物とは思わない。完全に1つになり、1度くっつくと死ぬまで離れない。もちろん一生出会うことなく死んでしまうやつもいます。だからこそ出会ったら必ず一緒になる。そうしてお互いの精子を交換しあって、産卵をする。そうやって生存を確実なものにしているんです。それが“寄生虫の戦略”なんですよ。

 また、サナダムシですと、1匹が1日に卵を100万個産みます。ですがその中からきちんと終宿主にまで辿り着いて親になるのは、1、2匹しかいません。あとは他の動物の餌になってるか、終宿主に行き着かずに野垂れ死ぬかです。

 そういうことを人間の生まれる前からずっと続けてきているんです。大いに探求のしがいがあると思います。そこが寄生虫の魅力だと思うんです。

・亀谷俊也先生から全てを学んだ学生時代が今に継がれていく。

 私は魚の寄生虫を専門にしているんですが、大学にいるとき誰も教えてくれる人がいなかったんです。それで「目黒に寄生虫の博物館があるから教わってこい」と大学の教授に言われたんです。そこで出会ったのが亀谷俊也先生で、寄生虫の観察の仕方や標本の作り方など、全て1から教わったんです。もう40年以上前の話になります。

 それから目黒寄生虫館に出入りするようにはなったんですが、ある時亀谷俊也先生が倒れてしまったんです。脳出血起こして、そのまま亡くなってしまいました。そのあと館長は内田明彦先生、町田昌昭先生と継がれていたんですが、そのうち「他にいないからやってくれ」と話がきたんです。それが2011年のことです。当時私は大学で教授をやっていたんですが、亀谷俊也先生のこともありましたし、「やるしかないな」と教授を辞めて館長を受けることにしたわけです。

 それでここでやっていることは、虫を集めて、標本を作って、整理していく。いわゆる分類作業を主にやっているんです。そうやって普段は穏やかに過ごしているんですが、3、4年くらい前に皇居の生物学研究所から電話がかかってきたんです。理由を聞いてみると、京都の御所に大きな池があるんですが、どうもその池のハゼに寄生虫らしきものがいると言われたんです。数センチの小さいハゼで、お尻の方から赤いのがチロチロと出ていたんです。それは寄生虫だったんですが、それ以外にもいたんです。それが新種だったんですよね。新しい「属」にするくらい珍しい寄生虫でした。そうして次々と新種が発見されて、全然終わりが見えなかった。でもやはり新しいのを見つけるのは嬉しいことです。しかし反対に焦りもあります。あと何年に続けていられるかと。

 大学にいるときは、学生に教え込めば受け継ぐことができたんですが、今は弟子もいません。ですからできるだけ仕事をかたづけようと。そのためには「どうやったら一番効率がいいかな」と考えたんです。でもやはり「規則正しい生活が一番かな」と思いました。コンスタントに生きていく。今はそれを心がけています。